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東京高等裁判所 昭和51年(ラ)201号 決定 1976年8月11日

昭和五一年(ラ)第一七二号事件抗告人

石井利夫

同年(ラ)第二〇一号、第二〇三号事件抗告人

石井清人

右第二〇一号事件抗告代理人

田村徹

右第二〇三号事件抗告代理人

鈴木久義

主文

一、抗告人石井利夫の抗告及び抗告人石井清の昭和五一年(ラ)第二〇三号事件の抗告をいずれも却下する。

二、抗告人石井清の昭和五一年(ラ)第二〇一号事件の抗告を棄却する。

三、抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一抗告人石井利夫の抗告の趣旨及び理由は別紙(二)のとおりであり、抗告人石井清の各抗告の趣旨及び理由は別紙(一)のとおりである。

二当裁判所の判断

(1)  抗告人石井利夫の抗告について

本件競落許可決定が言渡されたのは、昭和五一年三月一八日であることは本件記録上明白であるが、抗告人石井利夫の本件即時抗告状に押捺された当庁民事事件係受付印に徴すると、右即時抗告状が当庁に提出されたのは昭和五一年三月一六日であることが認められる。ところで競落許可決定の言渡前になされた競落許可決定に対する抗告の申立は不適法であつて、たとえそれが不適法として却下されない間に抗告をなした者に不利益な決定が言渡されても、右抗告申立は適法とはならないから右抗告は不適法として却下すべきものである。

(2)  抗告人石井清の昭和五一年(ラ)第二〇三号事件の抗告について

本件記録によれば、抗告人石井清は当庁に対し、昭和五一年三月二四日昭和五一年(ラ)第二〇一号事件の即時抗告状を、次いで同年同月二五日同年(ラ)第二〇三号事件の即時抗告状を各提出したことが明らかである。そうとすれば右第二〇三号事件の抗告は重復してなされたものというべきであるから民事訴訟法第四一四条、第三七八条によつて準用される同法第二三一条の規定の趣旨により許されないものというべきであり不適法として却下すべきものである。

(3)  抗告人石井清の昭和五一年(ラ)第二〇一号事件の抗告について

(一)  抗告理由(1)について

本件記録によれば、原裁判所は本件競売申立人らの申請により、執行官宮内正義に本件競売の目的土地につき賃貸借の取調を命じたところ、右執行官は右各土地所在地に臨んで調査の結果、昭和五〇年一〇月二九日原裁判所に対し右各土地には賃貸借関係が存在しない旨を記載した報告書を提出したこと、原裁判所は昭和五〇年一〇月三〇日付、及び昭和五一年二月六日付の二回にわたり賃貸借関係が存在しない旨記載した競売及び競落期日公告をなし、その結果実施された昭和五一年三月一八日の競売及び競落期日において本件競落決定が言渡されるに至つたことが認められる。

ところで、競売期日の公告に賃貸借関係を掲記せしめている趣旨は、競落人に対抗しうべき賃貸借関係の内容を事前に知らしめて競落人に不測の損害を蒙ることのないようにするにあると解すべきであるから、仮に競落人に対抗しうる賃貸借関係が存在していたにもかかわらず、これを看過して公告中に賃貸借関係が存在しない旨の記載がなされ競売手続が実施されたとしてもこれがため競落人が不利益を蒙ることはあつても競売目的物件の所有者は何ら不利益を蒙るものではないということができる。

そうとすれば、本件競売の目的土地の所有者である抗告人石井清は、その主張にかかる賃貸借関係の存在について検討するまでもなく、本件競落許可決定の取消を求める利益を欠くものというべきであり、抗告理由(1)は採用できない。

(二)  抗告理由(2)について

本件記録によれば、本件競売の目的土地はいずれも登記簿上は農地として表示されているが、木更津市清見台第四土地区画整理組合によつて実施された区画整理の対象地となり、昭和四六年八月三日仮換地指定を受け現況は宅地化している(単に一時的に宅地化しているとは認められない)と認められ、原裁判所は昭和五〇年七月二日執行官宮内正義に本件競売の目的土地につき評価を命じたところ、同執行官は右各土地所在地に臨んで調査の結果、昭和五〇年九月一二日原裁判所に対し右各土地が減歩され宅地化されている状況を考慮して、減歩された面積の宅地として評価額を算定した評価書を提出したこと、原裁判所は昭和五〇年一〇月三〇日付で右評価書にもとづく評価額をもつて最低競売価格とし、不動産の表示欄には登記簿上の表示とともに換地街区の表示、宅地の表示及び宅地面積の表示を掲記した競売及び競落期日公告をなし、さらに昭和五一年二月六日付で、同様の公告をなしたうえ、それにもとづいて本件競売手続が進行し、本件競落許可決定に至つていることが認められる。

そうだとすれば、原裁判所は換地処分後の本件競売の目的土地の現況にもとづいて本件競売手続を進行させ、本件競落許可決定に至つたものであつて何ら違法というべき事由は存しないものというべきであり、抗告理由(2)は採用できない。

(三)  その他、本件記録を検討するも、本件競落許可決定を取消すべき瑕疵は見当らないから抗告人石井清の抗告は理由がない。

(3)  よつて、抗告人石井利夫の抗告及び抗告人石井清の昭和五一年(ラ)第二〇三号事件の抗告はいずれもこれを不適法として却下し、抗告人石井清の同年(ラ)第二〇一号事件の抗告は失当として棄却することとし、抗告費用は抗告人らの負担とすべきものとして、主文のとおり決定する。

(瀬戸正二 小堀勇 小川克介)

別紙(一)、(二)<省略>

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